エストニア遠征大ピンチ①
渡航を目前に控えたある日、私は完全に闇に落ちていた。
フライトチケットの姓名が逆になっているという、まさかの初歩的な痛恨のミス。
その修正をしようとした瞬間、私は迷宮に迷い込んだ。
今回のチケットは少し複雑だった。
販売名義はA社。
実際に運航するのはB社。
そして予約・発券はC社(旅行代理店)。
「売った会社」「飛ばす会社」「予約を管理する会社」がそれぞれ別。
名前の修正をお願いすると、
A社は「発券元のC社へ」と言い、
C社は「運航会社のB社へ」と言い、
B社は「予約元へ」と言う。
三つのホームページを何度もぐるぐると往復させられ、そのたびに疲弊し、状況は一歩も進んでいないのに、心だけがすり減っていった。
まるで悪夢だ。
探しているものが、どうしても見つからない。
行きたいところに、どうしても辿り着けない。
夢の中で味わう、あの焦りと無力感。
じっとりとした不安が体を包む。
私はホームページを行き来しながら、
これは悪い夢なのではないか、と何度も思った。
目が覚めれば、すべて解決しているのではないかと。
けれどこの無限ループ地獄は現実で、時間だけが無慈悲に進んでいた。
…あぁ、パッキングも全然できていない。
練習動画も確認したいのに。
なんで私は今、こんなことをしているのだろう。
問い合わせ、検索、電話、保留音。
また検索、また電話。チャット、メール。
繋がらない苛立ち、待たされる不安。
恐怖と焦りが、じわじわと心を侵食していった。
血の気が引く。吐き気と頭痛がする。
絶望と自己嫌悪が混ざり合い、私は深い闇の底へ引きずり込まれるような感覚に陥った。
もうエストニアには行けない。
もう何もかも終わりだ。
本気で、そう思っていた。
⸻
夜、先輩から電話があった。
ベリーダンスとは無関係の人だ。
ただ話を聞いてくれて、黙ってうなずいてくれて、「大変だね」と言ってくれた。
この方は私の練習を見に来てくれたり、別のジャンルのスポーツ視点からアドバイスをくださっていた方だ。
見守っていてくださる存在の寄り添いは、何よりも安心をもたらす。
話しているうちに心が落ち着き、
混乱が少しずつ整理されていった。
追い詰められていた気持ちがゆるみ、
やがて決心が静かに固まっていった。
私は気づいた。
もし名前の変更ができなかったとしても、
私は行く。
⸻
この遠征のために、
ワークショップを取り、
個人レッスンを取り、
コンペの権利を取り、
ずっと準備してきた。
ホテルも予約した。
福岡から大阪までの航空チケットも、1.5往復分買っている。
これをすべて放り投げて、
こんなしょうもないミスを理由にやめるなんて、できるわけがない。
もちろん金銭的負担は大きい。
十数万円の増額は、目の前が暗くなるほど恐ろしい。
けれど長い人生で考えたとき、
その十数万円よりも、エストニアで経験する時間の方が、私にとっては遥かに大きな財産になる。
人生、経験してなんぼだ。
それに、忙しい中で長いビデオレターを送ってくれた、心から尊敬するダリナ。
彼女に踊りで感謝を伝えるために。
さらに多くを学ぶために。
こんなことで、この機会をむざむざ手放すわけにはいかない。
そうして私は決めた。
たとえ変更ができなくても、私は行く。
⸻
ギリギリすぎる乗り継ぎ時間への不安から、私は大阪行きの片道フライトを追加で購入していた。
あのときは、ただ「安心を買う」つもりだった。
けれどそれが、今回のトラブルを解決するための“時間”になるのかもしれない。
もし乗り継ぎ時間がギリギリのままだったら、完全に詰んでいた。
一縷の望みを託せるだけの時間が、私には残されていたのだ。
もしそうだとしたら、
なんてドラマチックで、なんて皮肉で、なんて面白い展開だろう。
これはきっと、私だけのドタバタ映画。
わたしのドタバタ劇場【エストニア編】、
どうやら開演早々、波乱含みらしい。
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