月が綺麗ですね

9月8日は皆既月食だった。寝る支度を済ませた深夜0:15頃、外に出るとベランダのガラス屋根は月の光に煌々と照らされ、空は少し透明感のある濃い藍色で、虹色の薄雲がやわらかく浮かんでいた。もう間も無くしたら月食が始まる、直前の満月である。

滅多に見れない神秘の瞬間を、夜を明かして観たい気持ちはやまやまだったが、疲労が限界で気絶しそうなくらい眠かった。iPhoneを取り出し、月の写真を数枚撮ってみる。真っ白の発光体に映ったり、ぼやけたり、なかなか撮影は難しい。微調整をして1枚成功。クレーターの影がちゃんと写り込んでくれた。満足して、少しだけカーテンを開けて、月の光をふんわり浴びながら床についた。

…どのくらい眠っただろうか。急に喉が苦しくなり、いつもの咳発作で目が覚めた。吸入薬のおかげで窒息はしないが、肋骨に響いて痛い。症状はだいぶ軽くなったようで、すぐにおさまり、お茶をひとくち飲んでからベランダへ。そう、月食の続き。時間は4:30。ギリギリまだ間に合うはずだ。

西の空に、欠けた月が浮かんでいた。地球の影が月に掛かる。ただそれだけの事なのにすごく神秘的な姿だ。38万キロ彼方に浮かぶ衛星。潮の満ち引きを引き起こす源。喘息発作のおかげで見ることが出来て良かった。西の空の低いところでは雷が無音で光っていたのが余計に神秘さを演出していた。

『月が綺麗ですね』と言えば、たいていの日本人は夏目漱石を思い出すのではなかろうか。明治の文豪が遺したこのあまりにも有名な言葉は、実はどの作品にも日記にも残っておらず半ば伝説的な言葉なのだそう。

『月が綺麗ですね』で『愛しています』の意味を持つとは、とても美しくてロマンティックな表現ではあるがあまりにも奥ゆかしすぎて伝わりにくい。これを告げられた相手の方にはちゃんと真意は伝わったのだろうか。いささか心配になってしまう。

この他にも『星が綺麗ですね』で『あなたに憧れています』

『虹が綺麗ですね』で『あなたと繋がっていたい』

『夕陽が綺麗ですね』で『このままもっと一緒にいたい』

『今日は肌寒いですね』で『抱きしめて温めてほしい』....などなど、他にもたくさん天気にまつわる隠し言葉があるのだそう。こうなると迂闊に天気の話をできなくなってしまいそうだ。

などと色々思いを馳せてみたのであるが、そもそもが余所余所しい関係やただの仕事仲間や初対面の人にこれを言ったとて何の隠し言葉にもならないだろう。

これはおそらく2人の関係性がある程度ロマンティックな事象を予感させるくらい親密で、だけどまだそこまでべったり近くない微妙な距離感だからこそ発動する、トリガーみたいな言葉なのだと思う。

だから躊躇なく言っても大丈夫。『月が綺麗ですね』ホント、綺麗な月夜でした。ちなみに次の皆既月食は2026年の3月3日だそうだ。おそらくわたしはこの日、飛行機の中から見ることになるだろう。


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